森会長発言 スポンサー
36社「容認できず」

東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の森会長が女性蔑視と取れる発言をしたことについて、NHKがスポンサー企業70社に取材したところ回答のあった企業の多くから「発言は容認できない」とか「苦情の声が寄せられている」といった声が上がりました。
「大会のビジョンである『多様性と調和』に反する」とか「森会長の辞任という安易な着地点に持っていって欲しくない」といった指摘もあり、発言の波紋が広がっています。

54社が取材に応じ36社が「発言容認できない」

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という森会長の女性蔑視と取れる発言について、NHKは▽東京大会の組織委員会と国内での契約を結ぶスポンサー企業67社と、▽IOC=国際オリンピック委員会と契約する国内企業3社の合わせて70社に取材し、9日午後8時までに54社が取材に応じました。

この中で、無回答だった18社を除く36社が「発言を容認できない」とした上で、「東京大会のビジョンである『多様性と調和』に反する」とか、「男女平等がうたわれているオリンピック・パラリンピックの精神に反していて不適切だ」と指摘しました。

また「顧客からの抗議や苦情などの影響が出ているか」尋ねたところ、影響が出ているとした企業が22社にのぼり、具体的には「スポンサーを降りるべきではないか」とか「森会長の辞任を強く要求してほしい」といった意見が寄せられているということです。

一方で「現時点で、スポンサー契約の再検討や打ち切りを行う予定があるか」聞いたところ、回答のあった42社すべてが「予定はない」としました。

このほか「真にオリンピック・パラリンピックの精神を体現した大会となるよう、組織委員会と一丸となって尽力していく」という声もあった一方で「森会長の辞任という安易な着地点に持って行って欲しくない」という指摘もあり、発言の影響が広がっています。

森会長発言にスポンサー企業から批判の声相次ぐ

東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の森会長による女性蔑視と取れる発言について、大会のスポンサー企業からは批判の声が相次いでいて、こうした考えを直接、組織委員会に伝える動きも出ています。

このうち、▼JR東日本の深澤祐二社長は9日の記者会見で森会長の発言について「オリンピック・パラリンピックの精神からいって非常に不適切な発言だ。大会自体はぜひ開催してほしいと思っているので、大会の精神を具体化するような取り組みをお願いしたい」と述べました。

▼JR東日本には、森会長の発言についての抗議などの意見が数件、寄せられたことも明らかにしました。

▼日本生命は「男女平等がうたわれているオリンピック・パラリンピック精神にも反する表現であり、大変遺憾である。組織委員会には、多くの人々に歓迎される大会になるよう尽力いただくことを期待している」とコメントしていて、こうした考えをすでに組織委員会に伝えたということです。

▼東京海上日動火災は「オリンピック・パラリンピックの理念や『多様性と調和』という東京大会のビジョンに反する発言であり、大変遺憾。適切に対応するよう組織委員会に伝えた」としています。

▼三井不動産は「オリンピック・パラリンピックの理念に反し、不適切なので、遺憾の意を表明する。これは組織委員会にもすでに伝えた」としています。

▼NECは「大会のビジョンである『多様性と調和』に反するものと捉えている。ジェンダーの平等の順守を組織委員会をはじめとする関係者に求めながら、ともに大会の成功に向けて取り組んでいく」としています。

▼三菱電機は「残念に受け止めている。皆様から理解され、協力いただけるような大会を目指していただきたいと、組織委員会に申し入れた」としています。

▼日本郵政は「オリンピック・パラリンピックの精神に反したものであり、大変遺憾」としています。

▼アサヒビールは「男女平等がうたわれているオリンピック・パラリンピックの精神に反する 不適切な表現であり、残念である」としています。

▼食品大手の明治は「今回の発言を大変残念だと感じている」としています。

▼石油元売り大手のエネオスは「人権の尊重やジェンダー平等の観点からも、極めて遺憾であり残念である」としています。

▼味の素は「発言は不適切であり、東京2020大会のビジョンである多様性と調和をともに目指すパートナーとして大変遺憾です。当社は性別や年齢、国籍、経験などによらず、一人ひとりが互いに尊重し合い活躍できる会社と社会を目指しています」とコメントしました。

▼アース製薬は「発言はオリンピック・パラリンピックの理念に反するもので、このような事態は誠に遺憾です。平等な社会の実現が企業使命であると考え、引き続き、安心・安全な東京大会になるよう尽力していきたいと考えております」とコメントしています。

▼駐車場運営などを手がける「パーク24」は、「男女平等がうたわれているオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な発言であり、大変遺憾です」とした上で、会社のホームページに「森会長の辞任を促してほしい」という内容のメールが2件あったことを明らかにしました。

▼印刷大手の大日本印刷は、「オリンピックの理念に共感し、オフィシャルパートナーになっているので今回の発言は遺憾に思う」とした上で、会社のホームページにこの件に関する問い合わせが数件寄せられたとしています。

▼リクルートホールディングスは「森会長の発言は、オリンピック・パラリンピックの精神に反するものであり大変遺憾です。当社は『多様性と調和』を大会ビジョンに掲げ、ジェンダーを含めた平等な社会の実現を目指すオリンピック・パラリンピックの精神・理念に 賛同しており、引き続き大会理念の実現に向けて支援・協働していきたい」とコメントしています。

▼読売新聞社は「当社の考えは社説で示したとおりです」としています。

今月6日付けの社説では、女性差別と受け取られても仕方がない不見識極まりない発言だとした上で、「日本を代表する意見だと誤解されないよう、大会関係者は、丁寧に説明を尽くす必要がある。失言で混乱を招いた責任は重い。発言の影響を踏まえて、身の処し方を再考すべきではないか」と指摘しています。

▼朝日新聞社は「森氏の女性差別発言について、組織委会長をすみやかに辞任するよう求める社説を掲載しています」としています。

今月5日付けの社説では女性指導者の育成と女性幹部の登用はスポーツ界の喫緊の課題だとした上で、「その取り組みをやゆし、女性全般を侮辱した責任は極めて重い」と指摘しています。

▼日本経済新聞社は「社説ほか紙面、電子版で当社の見解を掲載しています」と回答しました。

今月5日付けの社説では、偏見や差別であることは言うまでもなく、女性を萎縮させかねない発言だとした上で、「お粗末な言動により組織委トップへの不信が増すような事態は、五輪開催への機運や国際的な理解を損ないかねない。信頼回復に向け、全力で取り組む必要がある」と指摘しています。

▼毎日新聞社は「森氏の女性蔑視発言について、『女性を差別した発言であり、到底許されない』とする社説を5日付けの朝刊に、組織委員会会長を『辞任すべきだ』とする社説を9日付けの朝刊に掲載しています」としています。

このうち、9日付け社説では政府や関係者が森会長の続投を支持していることを世論との驚くべきずれだと指摘した上で、「オリンピック憲章はあらゆる差別を認めない。それに反する認識を持つ人がトップに座り続けることは許されない」などと指摘しています。

▼北海道新聞社は「今月6日付けの紙面で『森喜朗氏の発言五輪トップに不適格だ』の見出しで、『発言は女性蔑視ととらえられても仕方なく、到底許されない』『東京大会の実務を担うトップにふさわしくなく、辞任すべきだとの声がやまない。当然だろう』との社説を掲載している」としています。

またスポンサー企業の1つは、顧客から「スポンサーを下りてほしい」という要望や「森会長の辞任を強く要求して欲しい」といった意見が寄せられ、信頼回復に向けて対処するよう組織委員会に申し入れを行ったということです。

さらに別の企業からは、森会長の謝罪会見について、「企業が社員の不祥事や事故で会見を開くときは事態を沈静化させるために目的と狙いをもって臨む。しかし今回の会見で森会長が何が問題になっているか理解しているようには見えず、謝罪会見になっていなかった」と対応に疑問を投げかける声もあがっていました。

東京大会のスポンサーのうち、3番目のランクの「オフィシャルサポーター」と呼ばれるカテゴリーの企業の1社は、NHKの取材に対し、「森会長の発言は到底、容認できない。謝罪と撤回は当然のことであるし、最低限必要な措置ではあるが、組織委員会の会長のそういった発言が世界に届いている状況なので、最低限な対応だけでは済まされないと思う」としています。

その上で「森会長が辞めるべきだとは考えていない。辞めればいいという問題ではなく、そういう安易な着地点に持って行ってほしくない。世間の理解を得られるようしっかり対応してほしい」と話していました。

組織委がスポンサー企業に謝罪

組織委員会は8日、大会を支える最高クラスの「TOPスポンサー」をはじめとするスポンサー企業およそ80社を対象にオンラインの会合を開き、森会長の発言について説明し謝罪しました。

関係者によりますと、スポンサー企業からは「謝罪して撤回したからといって終わりにしないでほしい」「外部への説明をきちんと対応してほしい」などといった意見が出たということです。

組織委員会は「あらゆる面での違いを尊重し、たたえ、受け入れる大会を運営する」というメッセージを出していて、引き続きスポンサー企業に対しても理解を求めていくことにしています。

JOC山下会長 “スポンサー企業の懸念は当然”

森会長の発言に対するスポンサー企業の懸念についてJOC=日本オリンピック委員会の山下泰裕会長は、9日の定例の記者会見で「スポンサー企業も多くの企業が差別に対しては容認しない姿勢を明確にしている。苦情が寄せられることは当然ありえることだろう。消費者からも黙認するのかという声は出てきていて当然だろうと思う」と述べました。